ご挨拶

大矢幸弘

この研究の代表者を務めております大矢です。
20世紀の後半から先進国を中心に急増したアレルギー疾患ですが、特に21世紀に入ってからは食物アレルギーの増加が目立ちます。
1つの原因は、離乳食の開始が遅くなってきたことに関係があります。口から食べることで、その食物に対する免疫寛容(体がその食物を異物を認識しないで受け入れるようになること)ができるのですが、その前に、荒れた皮膚に食物の抗原が付くと皮膚の免疫細胞が、その食物を敵と見なしてアレルギーを起こす抗体(IgE抗体)を作ることが分かってきました。
卵や卵製品を食べる人がいる家庭のホコリのなかには卵の抗原が含まれています。離乳食を開始する前に、ホコリの中に含まれている卵や人の手についた卵の抗原が赤ちゃんの荒れた肌(バリアが低下しています)につくと、皮膚の免疫細胞が卵のタンパク質を捕まえてリンパ節に移動し卵のIgE抗体を作る指令を出します。
ですから、湿疹や乾燥肌のひどい赤ちゃんが食物アレルギーになりやすいのです。食物抗原に対するIgE抗体を作る危険性はアトピー性皮膚炎の重症度に比例することがわかっています。つまり、アトピー性皮膚炎を発症する時期が早いほど、そして重症であるほど食物アレルギーになるリスクが高いのです。
そこで、私達は、まだ離乳食を開始する前に痒みのある湿疹ができてアトピー性皮膚炎の初期と診断できた赤ちゃんを対象に、いち早くステロイド外用薬と保湿剤で湿疹を治して食物アレルギーを予防する研究を計画しました。
参加した赤ちゃんはコンピュータが2つの治療法のどちらかに自動的に割り付けをします。1つは、保湿剤から始めて湿疹のできたところだけステロイドを塗る方法、もう1つは顔と他のパーツに分けてステロイドを塗り全身の湿疹をゼロにする方法、どちらの方法も皮膚がきれいになったらステロイドを減らして保湿剤中心のスキンケアを続けます。そして生後半年になったところで、卵アレルギーがあるかどうかを経口負荷試験(実際に卵の粉末を食べてみる)で判定します。
どちらの方法も何もしない赤ちゃんよりは食物アレルギーになる人が少ないと予想していますが、どちらがより安全で食物アレルギー(卵アレルギー)が少ないかを調べます。
また、生後半年の経口負荷試験が終わった後は、観察研究に参加して頂き6歳までアレルギー疾患の状態を追跡します。仮に生後半年の時点で卵アレルギーになってしまっても、経口免疫療法によっていち早く治療しますので、多くの赤ちゃんは1歳で卵が食べられるようになるでしょう。
お陰様で多くの方からご協力をいただき、当研究は様々な検討段階へと入っております。ご協力頂きました皆様に感謝申し上げます。

国立成育医療研究センター アレルギーセンター長 大矢幸弘

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